根本的な問題を突き止めるには“因数分解”が鍵である【①顧客データ分析編】
データ分析をする上で重要なのは、大きいところから一つずつ因数分解していくことです。
例えば、売上減少要因を把握していくためには、
売上 = 客数 × 客単価
に因数分解することで、客数と客単価どちらに主に原因があるのか分かります。
また、更に因数分解することで、より詳細に原因を特定していくことが可能となります。
例えば、
客数 = 新規客数 + リピート客数
客単価 = 1回当り買上点数 × 商品単価
といったように更に分解することで、売上減少に大きく関わっている問題を特定することができます。
このような因数分解はとても大切です。
よくある企業の間違いとして、「売上が下がっている!お客様が減っているから新規のお客様を取らなくてはいけない!」と、分析をせずに、新規顧客獲得のために広告を打ったりするケースをよく見ます。
もちろん広告を打てば、打った分の新規顧客は増えるかもしれません。
しかし、それが売上減少要因の根本的な原因でないとすると、一時的に新規客数が増えてその分の売上は増加しますが、その後また同じような状態に戻ってしまいます。
重要なのは、何か施策を打つ前に、どこが根本的な問題なのかを特定し、その問題に寄与する施策を打つことなのです。
目次
アパレル業界を例にした売上の因数分解
例えば次のケースを見てみましょう。
全国にチェーン展開しているあるアパレル企業の売上を因数分解したグラフになります。
以下のグラフは、
売上 = 会員売上 + 非会員売上
に因数分解し、更にそれぞれの売上を
会員売上 = のべ購入客数 × 客単価
= のべ購入客数 × (1回当り購買点数 × 商品単価)
※非会員も同様
に分解して、それぞれの項目における前年対比を表したものになります。
今回は、黄緑色でハイライトしているのべ購入客数に注目してみましょう。
会員、非会員ともに、12期、13期はのべ購入客数が減少しているものの、14期については増加に転じていることが分かります。実際に現場で働く社員の声を聞いても「今期は新規の方も常連の方も増えています」と話しているのが多くありました。
特にBtoCの業態においては、いかに自社のファンを増やしていくかというのが中長期的に安定して売上を伸ばしていけるか重要なポイントとなります。
この企業においてもいかに「会員数」を継続的に伸ばしていくかが、全体の売上基盤を作っていけるかという指標となっています。
従って、今回は「会員ののべ購入客数」についてより深掘りしていきたいと思います。
のべ購入客数を因数分解してみる
このグラフは、会員を年間の購入回数別に分解して、客数(ユニークユーザー数)の推移を表したものになります。
こちらを見ると、年間2回以上購入する会員については年々増加傾向にありますが、年間1回しか購入しないライトユーザーについては減少傾向にあることが分かります。
現場の声でもあった「常連の方も増えています」というのは正しく、よくお店に来てくれる、すなわち自社のファンについてはしっかりとコミュニケーションが取れて増やせていますが、その一方で年間1回しか来ない、しかし構成比としては会員全体の7割以上を占めるライトユーザーについては年々取り逃がしてしまっている、という問題が把握できました。
実際に会員ののべ購入客数を
のべ購入客数 = ユニーク客数 × 購入頻度
に分解すると、以下のようになります。
購入頻度は年々増加していることが分かりますが、ユニーク客数については年々減少傾向にあることが分かります。
よりヘビーな顧客(ファン)については毎年増加(よりたくさん来てもらっている)することができているものの、ライトユーザーについては減少してしまっています。
現時点ではファンである上位顧客でしっかりとのべ購入客数を取れていますが、今後のことを考えると、ライトユーザーが減り続けることは裾野が狭くなってしまうことになるので、今後更に売上の安定性が崩れてしまう可能性があります。
更にその会員のうちライトユーザーがなぜ減少しているのかを深掘りしたのが以下のグラフになります。
このグラフは、会員を登録した年度別に分解して、客数(ユニークユーザー数)の推移を表したものになります。
こちらを見ると、一目瞭然で、毎年会員の半数以上を新規会員として獲得できている一方、その8割以上は翌年度には購入しなくなっていることが分かります。
新規顧客はしっかりと獲得できている一方で、その顧客をファンにするまでの育成が全くできていない、というのがこの企業の顧客に対する最も大きな問題となります。
もともとは新規の顧客をどう増やしていくのかの施策が中心でしたが、この分析結果を踏まえ、いかに一度接点を持ったお客様をファンにしていくのかという戦略・施策に舵を切り替えました。
このように、ひとくくりに売上が減っていると言っても、その原因は企業によって全く異なります。それは上記のように大きいところから因数分解していくことで要因が鮮明になるのです。
今回は《商品》を切り口に因数分解して根本的原因を明らかにしましたが、以下の記事では、同様に《顧客》を切り口に紐解いていきます。
また、アパレル以外の物販・小売業界における分析事例も、以下の資料内で紹介しています。