小売業の売上を伸ばすデータ分析のやり方
小売業の売上、利益を高めるうえでデータを活用することは非常に効果的です。特に近年ではIT技術の発達によって、店舗でもネットでも様々なデータを取得し分析することができるようになっており、データ活用の重要性はより高まっています。
そこでこの記事では、小売業の収益性を高めるために必要なデータ分析のやり方を解説します。
目次
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事業の成長にデータ分析が必要な理由
具体的なデータ分析の方法を解説する前に、そもそもなぜ事業の成長にデータ分析が重要なのかを確認しましょう。
経営や日々の業務とは、常に思い描いている理想の姿を実現させるためのものだと思います。
- 売上を〇〇億円にまで伸ばす
- 利益率を〇ポイント向上させる
- 収益性の悪い店舗を改善する
- ヒット商品を生み出す
- 適正在庫にし、消化率を上げる
などなど、自身のポジションや事業部によって目的は異なれど、今の「現状」よりも高いレベルにある「理想の姿」を目指してビジネス活動しているかと思います。
この「理想の姿」を実現させるために必要なのが、「現状」を鮮明に把握することです。なぜなら、「現状」とは「理想の姿」へ向かうための“スタート地点”だからです。そしてその「現状」を鮮明にするに当って有効なのが、データ分析になります。データ分析をすることで、現状の強みや課題が定量的に把握することが可能となります。
データ分析で自社の現状を鮮明にする
さて、ではどのように「現状」を鮮明にするのでしょうか。
ここで威力を発揮するのがデータ分析となります。なぜデータ分析が必要かと言うと、例えば、現状を把握する上で
- お客様は40歳くらいの方が一番多くて、少しずつ増えていて、現状大体1,000人くらいが1年間の間で買ってくれている
この程度のことはこの記事をお読みの皆さんも把握されているかと思います。
しかし、「理想の姿」が年間1万人の人に購入してもらっている状態だとした場合、どのように1,000人から1万人まで増やしていくのか、具体的なアクションプランまで落し込むことができるでしょうか。
- お客様は40代がちょうど半数で、この3年間の間で毎年平均7.5%ずつ増加しており、直近年では1,025名で2億3,200万円の売上となっている
- しかし、新規顧客は毎年10%ずつ増加しているものの、リピート率が低く3年前は75%がリピートしてたが直近年のリピート率は65%まで減少
- リピート率をお客様の年代別に見ると、50代以上は85%と高い一方で、40代は70%、30代以下は45%と年代ごとに大きく乖離
- リピート率の高いお客様層は、〇〇カテゴリの商品を購入する割合がそうでないお客様層と比較すると●ポイント高い
- 一方で、〇〇カテゴリはここ3年で売上減少傾向にあり、中でも1品番当りの販売数量が前年対比5%減で推移、特に上位品番にて大きく減少
このように、数字とともに具体的に現状が整理されるとどうでしょうか。
自社の強み・弱みが定量化されることにより、どこが伸ばせそうか、一方でどの部分を改善する必要があるのかが明確になります。現状が定量的に明確になることによって、理想の姿を実現するための自社の現時点での問題が数値化されます。また、同様に強みも定量的に洗い出されます。
小売業に必要な3つのデータ分析のやり方
ここからは、小売業界において必要なデータ分析の方法を解説します。ちなみにここから解説するデータ分析・可視化事例の詳細資料はこちらから無料ダウンロード可能ですので、ぜひダウンロードして読み進めてみてください。
これから説明する分析方法は、小売業界において「現状」の課題を明らかにするのにとても有効な方法となります。小売業界において重要な分析は、大きく次の3つです。
- 店舗視点のデータ分析
- 商品視点のデータ分析
- 顧客視点のデータ分析
この3つの視点にて分析していきます。
店舗視点のデータ分析
小売業界において、売上・利益の源泉は、一店舗一店舗の店舗から生み出されます。店舗によって十分な収益の取れている店舗もあれば、その一方で収益性の低い、下手すると赤字となっている店舗が存在しているかもしれません。
その収益性の差を具体的に分析していくことで、勝ち店舗(収益性の高い店舗)作り上げるための改善施策や今後の出店戦略に繋げることができます。
店舗ごとの「収益性の差」を分析する
店舗ごとに収益性のバラつきは必ずあります。その差がどこにあるのか、各コストを比較することで検証できます。
図表1では、複数の店舗を持つ弊社クライアントの店舗について、EBITDA率(EBITDAとは、税引前利益に、特別損益、支払利息、および減価償却費を加算した値)の高い店舗と低い店舗で色分けをし、それぞれの地代家賃率と人件費率でプロットしたグラフとなります。
図表1 店舗別の人件費率と地代家賃率の関係
図表を見ると収益性が低い店舗(EBITDA率がマイナスとなっている店舗)では固定費である人件費か家賃、あるいはその両方の比率が高くなっていることが分かります。
これは小売業においてよく見られる傾向で、店舗の収益性の差は固定費比率が圧迫しているケースがほとんどになってきます。それは、要は売上が足りずにコストを賄えていないということです。
固定費を下げる方法として、家賃交渉するとか、出来る限り節約して水道光熱費を抑えるとか、少ない人数で営業するとか考えられますが、現実的には難しいものばかりです。ですので、固定費比率を下げるためには、売上を上げる必要があります。
従って、店舗の収益性に差が出ている要因が固定費にある場合、次に行う分析としては、売上と収益性の関係性になってきます。
売上と収益性の関係を分析する
図表2は、売上(横軸)とEBITDA率(縦軸)の関係性をプロットしたグラフとなります。
図表2 売上とEBITDA率の関係
売上が増えればEBITDA率も増加する傾向にありますが、単純に売上が大きければ大きいほどEBITDA率も上がる、というわけではなさそうです。
図表2で示しているように、年間売上が8,000万円以上となると、EBITDA率はプラスになる傾向が見られます。一方で、年間売上が6,000万円を下回るとEBITDA率はマイナスとなってしまっています。その間である年間売上が6,000万~8,000万円の間は、EBITDA率がプラスの店舗が多いですが、一部マイナスの店舗も存在しているため、コストのかけ方次第でマイナスになり兼ねない、注意すべき売上規模と言えるでしょう。
続いての図表3は売場面積とEBITDAをプロットしたものになります。
図表3 EBITDAと売上面積の関係
グラフで示した通り、この企業では店舗の売場面積が32坪を切ると収益性がマイナスとなる店舗が出始めるようになることが分かりました。
以上のことから、この企業の場合、売上が年間8,000万円以上、売場面積が32坪以上が、十分な収益性を確保する条件となりそうなことが分かりました。
売上と売場面積の関係
商品視点のデータ分析
小売業(製造も行うSPA業態も含む)の場合、売上の源泉は「商品」になります。ほとんどの企業において陥っていることの一つとして、売筋商品が在庫切れとなってしまい売り逃しを発生させていることと、その一方で死筋商品をいつまでも抱えていてキャッシュ化できない在庫を多く持ってしまっていることです。
この部分をデータ分析し、単品ごとに見える化することにより今後の適切なMD計画や、日々のディストリビューション(値下げ指示、追加発注、商品の店舗間移動)を適切に行うことができるようになります。
売上状況を商品視点で分解してみる
図表4は全商品カテゴリの中からTシャツの売上状況を分解したグラフになります。
図表4
図表1のように売上を因数分解してそれぞれの傾向を見ていくことは、データ分析における一つの重要な方法になります。商品の売上は、
売上 = 販売数量 × 商品単価
に因数分解できます。更に、
販売数量 = 取り扱い品番数 × 品番当り販売数量
に因数分解できます。
「商品単価」については、企業側でコントロールできる部分になります。より低単価の商品を取り揃えたり、値引きなどを従来よりも積極的に行うと、商品単価は下がっていく傾向になることが通常です。
また、「販売数量」のうち「取り扱い品番数」も企業側でコントロールできる部分になります。取り扱い品番数とは、1年間(あるいは一定期間)において製造した(あるいは仕入れた)商品の種類になります。品番数とは、通常同じ型、デザインの商品を「1品番数」とします。(カラーやサイズの違いにおいても売れ方が大きく異なる場合はそこまで分解することもあります)企業側が製造する種類(あるいは仕入れる種類)を増やせば、必然的に「取り扱い品番数」は増えることになります。
このように、商品の売上は
売上
= 販売数量×商品単価
= (取り扱い品番数×品番当り販売数量)×商品単価
に分解して売上の増減している要因を把握していくことができます。
このとき気を付けるのが、商品のカテゴリによって傾向が異なることが多いので、全ての商品を一緒にして因数分解するのではなく、カテゴリごとに分けてそれぞれで因数分解していくことが重要です。
さて、図表4を改めて見てみましょう。
図表4 (再掲)
折れ線グラフが、前年対比を示していますが、一番左の売上は13期、14期と前年対比100%を下回っていることが分かります。
しかし因数分解していくと、「販売数量」は年々減少傾向、「商品単価」はほぼ横ばいということが分かります。更に、販売数量を因数分解すると、「取り扱い品番数」は大きく増加していますが、「品番当り販売数量」は大きく減少していることが分かります。
このアパレル企業では、売上減少に転じてしまったことにより、売上増加に向けた施策として、取り扱い品番数を増やすこと(要はたくさんの種類の商品を取り揃えること)を実施していったのですが、結果としては、お客様が分散してしまい、品番当りの販売数量が大きく減少してしまった問題を引き起こしてしまいました。
実はこのようなケースはよく見ます。売上を上げるための施策として品揃えを豊富にする、ということはよくありますが、店舗などでは物理的な制限もあるため、適正な品揃えというものがあります。
本来であればもっと売れた商品が、品揃えを増やし過ぎた結果、十分な在庫を置くことが出来ず売り逃しを引き起こしてしまった、ということが起こっている可能性があるでしょう。また、商品の品揃えを増やせば増やすほど、在庫も増えることが多いです。在庫が増えてもそれが売れれば問題ないですが、売れ残ってしまうとまた別の問題を引き起こしてしまいます。
図表1のように、商品の売上を因数分解することで、今売上増加している、あるいは減少している要因がどこにあるのか明確になります。
同じ企業でも商品カテゴリごとにその傾向は異なっている可能性もあるので、各カテゴリごとに行うことが重要です。
更にそのTシャツを単品ごとに見ていくことでより原因を深掘りすることができます。いきなり単品ごとに分析するのではなく、まずはカテゴリ全体で傾向を見て、その後にカテゴリ内の各商品ごとに分析するという順序を間違えないように気を付けてください。
カテゴリでの傾向が見えたらさらに単品での分析や、在庫データとの組み合わせで売筋・死筋を見つけるなどの分析を行うことで、より課題を明確にすることができます。
顧客視点のデータ分析
どのビジネスにおいても商品なりサービスを買ってくれている「顧客」がいるからこそ成り立っています。この顧客を分析することで、新規顧客を増やしていくためのキーとなるポイントや、顧客ロイヤリティを高める(ヘビー顧客としていく)ためのポイントが把握されます。
カード会員など、顧客情報を取っている企業であれば、販売ローデータにも顧客IDが紐づいています。そうすることで、会員と非会員の売れ方の違いを把握することができます。
客数の推移を分解してチェックする
図表5は3年間における会員と非会員の客数や来店頻度、購買点数などの推移を示したものになります。
図表5
こうすることで、各年においてどんな顧客層が増減しているのか分かるため、力を入れるべき層と打ち手の内容が定まってきます。
ちなみに、顧客の囲い込み施策として、ポイントカードを作っている企業は多いと思いますが、LINE@やメールアドレスを登録するなどオンラインでのアプローチができる方法での会員化をしていきましょう。
一度店舗で購入してくれたお客様が、次いつ来てくれるか分かりません。電話番号や住所だけですと、アプローチするのにもコストや手間がかかりますが、LINEやメールですとコストも手間も大きく省くことができます。また、店舗だけでなくネットショップへの誘導にも活用できます。
今では当たり前になっているオムニチャネル戦略を実行する上でも、店舗にて購入経験のある顧客をデジタル上でもコミュニケーション取れるような会員化の仕組みは重要です。
スマホアプリを作ることで、プッシュ通知などで追いかけたりオフライン(店舗)とオンラインの顧客データの統合も検討してみましょう。
会員分析で新規とリピーターの傾向を確認する
図表6,7は、会員の登録年別の客数推移になります。
図表6 会員の登録年度別の客数推移
図表7 客数推移の構成比
このグラフは、会員を登録した年度別に分解して、客数(ユニークユーザー数)の推移を表したものになります。
こちらを見ると、一目瞭然で、毎年会員の半数以上を新規会員として獲得できている一方、その8割以上は翌年度には購入しなくなっていることが分かります。
新規顧客はしっかりと獲得できている一方で、その顧客をファンにするまでの育成が全くできていない、というのがこの企業の顧客に対する最も大きな問題となっていることが分かりました。
そこでこの企業では、もともとは新規の顧客をどう増やしていくのかの施策が中心でしたが、この分析結果を踏まえ、いかに一度接点を持ったお客様をファンにしていくのかという戦略・施策に舵を切り替えました。
データ分析の進め方
上記に挙げたようなデータ分析に実際に取り組む際、いきなりデータを集めたり分析したりしても成果につながりません。成果につながるデータ分析を行うためには以下のようなステップを踏んで取り組むことが重要です。
- 目的の明確化
- 仮説を打ち出す
- 分析方法を決める
- データ収集
- データ分析
この記事で解説した分析手法を見ても分かる通り、解決したい課題が店舗の収益性なのか、在庫の消化率なのかなど、目的によって取り組むべきデータ分析は異なります。言い換えれば目的を明確にしておけば、必要なデータや分析手法も明確になるためスムーズにデータ分析を進め成果につなげることができます。
データ分析の進め方は「正しいデータ分析の手順とは?成果につながる5つのステップ」で詳しく解説しているので、こちらもぜひチェックしてみてください。
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