目的が明確でない時のデータ分析の進め方【多角化企業のデータ分析事例】
目次
この記事を読んだ人がよくダウンロードしている資料
大きな傾向から掴むことで「目的」も見えてくる
データ分析を行う際に、その目的を定めることが最も大切ですが、現実にはその目的が漠然としている場合がよくあるのではないでしょうか。
たとえば、社長や上司自身も、売上減少や収益性悪化の要因がわからず、解決策を立てられないために、結果としてあなたに漠然とした宿題が与えられることも少なくないと思います。
このようなとき、数値データを大きいところから分析することで、徐々に目的を詳細に定めていくことができます。
Case Study
ある日突然、社長から呼び出しがあり「売上が減っているから売上増加施策を考えろ!」という命題が出されました。
まず会社全体の売上推移〈図表3〉を見ると、2015年度には50億円あった売上が、4年間で徐々に減少しています。
図表3 会社全体の売上推移
図表4の事業別の売上傾向を見ると、アパレル事業・不動産事業・その他事業がありますが、アパレルの販売事業が全売上の9割以上を占め、かつ減少額のほとんどを占めています。
図表4 事業別の売上傾向
不動産事業は横ばい、その他事業の構成比はほとんどないので、アパレル事業に絞り、仮説を立てていきます。
- 店舗別に売上増減に差が見られるのではないか
- 商品別に売上増減に差が見られるのではないか
- 顧客別に売上増減に差が見られるのではないか
ロジックツリーで仮説を含めて整理したものが図表5です。
図表5 この場合のロジックツリー
ここからは、順番に数値データを分析していきます。
店舗別売上について、店舗別の売上推移〈図表6〉を見ると、全店舗において売上が減少していることがわかります。
図表6 店舗別の売上推移
どの店舗も年平均成長率が−4%~−7%となっており、多少の違いはありますが、目立つほどの差は見られないことから、売上減少の要因としては店長の力量や立地条件の可能性は低いといえます。店舗ごとに大きな差が表れていないので、競合店舗が近くに出てきて新規顧客が減少したという可能性も低いでしょう。
そのため、この部分を深掘りしても、売上増加策につながるような意味のある情報が得られる可能性は低くなります。
商品別売上については、図表7の売上推移を見ていきます。
図表7 商品カテゴリ別の売上推移
年平均成長率がどれも同じようなことから、店舗別の売上推移と同様、商品ごとに大きな差は見られません。ただし、全体が下がっているということは、このアパレルブランド自体を好んでいたお客様の母数が減った可能性があります。たとえば、お客様の嗜好が変化したにもかかわらず、それに対応できなかったのかもしれません。
そのような仮説を残しつつ、次にいきましょう。大きな視点でまずはさまざまな角度から分析していくことが重要です。
次に、顧客別売上について見ていきます。図表8の顧客別の売上推移は、顧客を既存顧客と新規顧客に分け、それぞれの顧客の年間購買回数ごとの購入金額を示したものです。
図表8 顧客別の売上推移
これを見ると、新規顧客の売上が大きく減少していることがわかります。
既存顧客については購買頻度が高い顧客は横ばいから微増傾向であり、購買頻度の低い顧客については売上が微減傾向にあるものの、減少額全体に占める構成比としては高くないので、大きな要因ではありません。ようやく差が出るデータ分析となりました。
以上のことから、売上減少の要因は「主に新規顧客が取れなくなったこと」だということがいえるでしょう。
そして、このあとの分析としては「なぜ新規顧客が減ったのか」を導き出すことにフォーカスしていくことになります。
このように、数値データを大きな傾向から分析することで、徐々に要因を絞っていくことがとても大切なのです。
大きな傾向から導き出される課題と仮説検証
仮説をより確かなものにしていく
前項で述べたように、大きな傾向から順番に分析していくことで、徐々にデータ分析の目的を達成するための課題が見えてきます。
先ほどの例で導き出された課題は、「なぜ新規顧客が減少しているか」ということでした。この課題を解決しない限り、売上減少を食い止め、再び増加させていくことは困難です。そのため、課題を見極めて精度の高い解決方法の仮説を構築するにあたっては、データ分析をした上で、担当部署および担当者といった関係者に問い合わせることも重要になります。
たとえば、データ分析によって導き出された次の3つの仮説も、関係者に確認することで、きちんと真偽を確かめることができます。
- 店長の力量や立地条件によって売上減少している店舗があるわけではない
- 競合店舗が出店してきたことによる売上減少ではない
- 特定商品が支持されなくなったことによる売上減少ではない
目的を達成するためには、より多くの仮説を確かなものにしていくことは必須といえます。
店舗別の売上推移や商品別の売上推移を分析していない状態で各担当者にヒアリングをしても、なかなか前に進みません。データ分析をした上で担当者に聞くことが大切です。
仮に、店舗別の売上推移のデータ分析をせずに、売上減少の要因は店舗ごとに差があるのではないかという仮説を立てた場合、あなたは担当者に、次のように聞くでしょう。
「この3年間、売上が減少しているのですが、店舗ごとに売上が減少している店やそうでない店はありますか? あるいは、店舗によっては競合店舗が近くに出店したことや、店長の力量によっても売上が変わってくるんではないですかね?」
こう尋ねた場合、担当者はどのように思うでしょうか? 忙しいのに、要領の得ない話を聞かされてうんざりしてしまいますよね。これでは、何も解決に近づきません。
しかし、データ分析を行った上でヒアリングをした場合、次のように理路整然と話を進めることができます。
「この3年間で売上が減少しているのですが、店舗別に見ると店舗ごとに大きな差は見られません。近くに競合店舗が出店したことによる売上減少や、店長の力量の差による売上減少ではないと思うのですが、いかがでしょう?」
この場合、担当者は「Yes」か「No」と答えるだけで済みます。
このように、データ分析は、社内のコミュニケーションをよくする上でも重要な役割を担います。担当者にも確認を取った上で仮説が正しければ、店舗別での分析はそれで完了となります。
先入観なく客観的な立場で判断できる
データ分析をした上で担当者にヒアリングをするもうひとつのメリットは、「客観的な立場で判断できること」です。
データ分析をする前に担当者にヒアリングをしても、要領を得ない回答しか期待できないでしょう。また、自分よりも専門知識を持った人であるがゆえ、その意見に引っ張られてしまう可能性があります。
その状態でデータ分析をしてしまうと、担当者の意見を証明するような結果を導き出すことに視点が向かってしまう危険性があります。また、データ分析結果とヒアリング内容に矛盾が生じたとしても、気がつかないかもしれません。したがって、担当者にヒアリングをする前の、先入観なく客観的な立場でデータ分析をすることをおすすめします。
出てきた分析結果をまず疑ってみる
データ分析で出てきた結果は紛れもない「事実」ですが、いったんその真偽を疑ってみる癖をつけるといいでしょう。
人間ですから、分析方法あるいは計算式など、間違う可能性は大いにあります。データ分析の結果が常に正しいものと思っていたら、間違いに気づかなくなってしまいます。
また、データ分析の結果に対し「本当に正しいのかどうか」を見極め、最適な解決策を導いていくためには、その事業や現場をよく知っておく必要があります。
現場のことを知っていれば、データ分析の結果の数値がおかしい場合に違和感を抱くこともできますし、どこに間違いがあるのかも探し出すことができるでしょう。だからこそ、事業会社で現場を知っている人がデータ分析をできるようになると、大きなバリューを発揮できるのです。
抽出した課題を深く掘り下げよう
さらに分析した上で関係者にもヒアリング
引き続き、先ほどの例を用いて説明していきます。
売上減少の要因として、「新規顧客が会社全体として獲得できなくなっていること」が課題であることが導き出せました。新規顧客の獲得にダイレクトに結びつく施策は、広告・広報活動ですので、そこが原因ではないかという仮説が立ちます。
次のステップでは、その仮説に伴い、深掘りしていきます。
まず、図表9に示したこの会社のP/Lを見てみましょう。
図表9 当該企業のP/L
「企業全体としての広告・広報活動に原因があるのではないか」というのが仮説ですが、その通り、2016年度から広告宣伝費を大きく縮小しています。会社全体として、広告・広報活動に使う予算を削っているようです。それに伴って、営業利益率は増加していますが、売上高が減少することによって人件費比率が上がり、2018年度からはまた営業利益率が減少し始めています。
これこそが「新規顧客が獲得できていない理由」であり、近年、売上が減少している根本原因だと言っても間違いではないでしょう。
次に、その仮説で正しいのか、関係者に確認します。すると、「自社の認知度も高くなり、ほとんどの人に知られるようになったため、テレビCMをやめた」とのこと。
データ分析から最終的に導き出される結果は、極めてシンプルなものがほとんどです。上記はあくまで例ですが、同様のことが現実のビジネスの世界でもたくさん起こっています。しかし、データ分析をしたからこそ、明快に答えが出るのです。
やや余談ですが、この例は、設定や数値は変えているものの、ある会社で実際に起こったことをベースにしています。そして、この会社の経営者にテレビCMをやめた理由を聞くと、次ページ図表10のような同社のテレビCM認知度のグラフを見せられました。
図表10 当該企業のテレビCM 認知度
「広告を見ている人は多く、すでに認知度は十分あると考えられます。ですので、他のことに予算を使っていきましょう」とマーケティング担当者に言われたとのことです。
認知度が高いからといって、お客様が来店するとは限りません。もちろん、ある程度の相関は出ますが、特に新規顧客に対しては、常に店舗に呼び込むための施策が必要です。
現に、テレビCMを打っていたときには、「新規会員カード発行で5%OFF」というキャッチコピーをつけて流していたため、テレビCMを見た視聴者が来店していたのです。
データ分析のゴールは戦略と打ち手の構築
戦略をデータ分析から導き出す
大きい傾向からデータ分析を行い、仮説を立てて少しずつ課題を明確にしていき、目的を達成させるための根本要因が把握できたら、あとはその原因を解決するための戦略や打ち手を構築していきます。
もしかしたら、本書をお読みいただく前は、数値データを分析し、「売上減少の要因は○○だということがわかりました」という考察を出すところまでがデータ分析だと思っていた人が多かったのではないでしょうか。
しかし、ここまでお読みいただいたみなさんは、企業の業績に結びつく戦略や打ち手をデータ分析で導き出したいと思い始めたはずです。
業績を上げるための戦略を構築する、あるいは何かしらの問題を解決する施策を構築するまでがデータ分析の役割であると、私は考えています。
先の例でいえば、データ分析をした結果、新規顧客が減少していることが原因で売上減少を招いていました。新規顧客が来なくなった理由(売上減少の根本原因)は、新規会員獲得のためのテレビCMをしなくなったことによると考えられます。
したがって、データ分析から考えられる今後の戦略、および打ち手としては、次のようなものが考えられます。
- 戦略………新規顧客の来店数を増加させる
- 打ち手……新規顧客獲得に向けた広告宣伝
もちろん以前と同様のテレビCMでもよいのですが、近隣エリアへのチラシやポスティング、フリーペーパーへの広告出稿など、予算に合わせて変えてみるのもよいと思います。
データ分析をもとに構築した戦略に関しては、一貫して進めていくべきです。ただ、具体的な打ち手に関しては、やってみないとわからない部分も多々出てきます。
先ほどの会社の場合、テレビCMは以前に実施していたことがあるので、大体の見通し(どの程度のコストをかければどの程度の売上が見込めるか)は立ちますが、実施したことのない施策に関しては、予算の範囲内でいろいろと試行錯誤してみて最も効果的な方法を見つけていくことが必要です。
ビジネスとは極めてシンプルなもの
先ほどの例でお話ししたデータ分析は、ものすごくシンプルな結果となりました。あくまで例だから、と思われるかもしれませんが、実際、ビジネスとは極めてシンプルにできています。なぜなら、ビジネスとは一言で説明すると「お客様に告知して、集客し、売る」という、極めて単純なことだからです。
実際、みなさんがお客様の立場だったら、「何かを見て知り、来店し、いいと思って買う」といった、極めてシンプルな行動パターンになっているのではないでしょうか。だからこそ、お客様の立場になって、いかにシンプルにわかりやすく伝えるかがとても重要になるのです。
その鍵は数値データに眠っており、データ分析を適切に行うことができれば、今回の例で挙げたようなシンプルな答えが得られます。少なくとも、私が手がけてきた何百というデータ分析においては、そのような結果でした。
したがって、もしデータ分析をして、その結果が、
「○○については□□して、○△については××して、△△に
ついては◇◇して、……」
というような複雑な打ち手をするというものであったとしたら、データ分析を見直す必要があるかもしれません。
打ち手を構築したら、あとは実行するのみ
せっかくデータ分析をして戦略や打ち手を構築したのに、結局は実行せずに終わってしまうケースが多々あります。それでは本末転倒です。
データ分析は、定量的に証明されている、という強い説得性を持つので、意思決定をする際にとても役立ちます。
データ分析によって自ら導き出した打ち手は、自信を持って実行に移してください。
\ この記事を読んでいる人におすすめ! /