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販売データの分析で営業戦略を立案する【出版社のデータ分析事例】

販売データの分析で営業戦略を立案する

この記事では、商品を軸にしたデータ分析で営業戦略を立てる手順を、出版社の事例をもとに解説します。

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出版業界の一般的なサプライチェーン

出版業界の一般的なサプライチェーンを始めにご説明します。

出版社によっては直接書店へ販売している企業もありますが、多くの企業が下の図のように、取次を介して書店へ販売しています。

出版業界の一般的なサプライチェーン

また、返品自由なのも一つの特徴でしょう。他の業態でも買い取ってはもらえるものの返品自由なビジネスモデルはありますが、出版業界はその代表的な業態になるかと思います。従って、新刊を出した際には、初版部数を買い取ってもらえるもののその後エンドユーザである消費者に手に取ってもらえなければ、返品されて戻ってきます。

出版社によっては、返品された分の返金をするために新刊を出してとりあえず目の前のキャッシュを稼ぐという自転車操業となっている企業も少なくありません。

販売数の傾向を分析する

今回の事例は、そんな出版業界でビジネス書をメインで取り扱う企業(B社)の事例となります。

下の図を見ると、一部の大ヒットと呼ばれるような3ヶ月間で2万冊を超える実売数を出す書籍を除いて、3ヶ月間の実売数と3年間の実売数には相関があることが分かります。

発売後3ヶ月間と3年間の書籍実売数の相関性

これはビジネスモデルにも起因しますが、ビジネス書においては、毎週のように新刊が出てくるため、3ヶ月で棚落ちする傾向が強く、それ故各出版社は3ヶ月でどれだけ売りを伸ばせるのか、を一つの指標としています。それ故、3ヶ月の売上で将来売上が決まってくる、と言っても過言ではなく、実際にB社においてもそのような傾向が出ていることが分かります。

更に短期間での相関性を見てみましょう。下の図は、発売後1ヶ月間と3ヶ月間の書籍実売数をプロットしたグラフになりますが、こちらも相関係数が0.8と強い正の相関があることが分かります。

発売後1ヶ月間と3ヶ月間の書籍実売数の相関性

要は、1ヶ月間の売上が分かれば、その後の3ヶ月間の売上も分かり、生涯売上も予測がつく、というのがB社の大きな特徴でした。(あくまでB社の特徴であり、出版社が全てそうであるとは限りません。)

ちなみに、各図表のタイトルにある「実売数」というのは、書店で実際に消費者が購入した数になります。

更に発売後1ヶ月間と3ヶ月間の書籍実売数を、返品率別にプロットしたのが図下の図になります。

先ほどお伝えしたように、出版ビジネスは、一度取次や書店に送品しても返品されるビジネスモデルとなっています。返品率は30%〜40%とも言われています。下手すれば半数近くが返ってきてしまい、在庫として残ってしまうのです。しかもアパレルや雑貨等、他の物販ビジネスと異なり、値下げも難しい業態です。従って、返品率を下げるということが経営上、とても重要な指標となります。

上の図を確認すると、1ヶ月間の実売数と3ヶ月間の実売数より、返品率が大きく異なることが分かります。初版と言われる、発売時に制作・印刷した部数を出来る限り売り切る、ということはもちろんなのですが、それ以上に売れないものを重版しない、あるいは重版部数を抑えていくということが重要となってきます。

もちろんその一方で、売れる書籍はしっかり重版することが大切です。(重版とは、一度出版した書籍を、再度印刷出版することです。他の業態で言うところの追加発注に当ります)この重版の判断および各書籍をどの書店に対して営業していくのかが、出版した書籍当りの利益額(利益率)、消化率を最大化するために必要な施策となるのです。

営業戦略を構築する

これらの結果より、B社においては、下の図のような営業方針を立てています。

書籍の1 ヶ月間実売数と3 ヶ月間実売数の傾向別営業方針

積極販売ゾーン:更なる売り伸ばしを目指し、重版含めてB社として積極的に営業していく書籍
重版見極めゾーン:1ヶ月間の売上では判断がつかず、売上進捗を定点観測することで、重版して積極販売していくのか、重版はせず売り切りを目指すのか見極めながら営業する書籍
売り切りゾーン:重版はせず初版部数を売り切ることを目指す書籍
売れないゾーン:在庫として余る可能性の高い書籍

このようにB社においては、出版された書籍をいかにして売り伸ばし、かつ無駄な重版を防ぎ消化率を高めていくのか、過去の売れ方の傾向を分析することで方針を定めて具体的な営業施策に落し込んでいます。

データに基づいてアプローチ方法を策定

今までは単純に都心の大型店舗を中心に、新刊やヒット書籍を営業していたのすが、データ分析をきっかけに、全体の方向性を掴んだ上で、下の図のような書籍別×書店別の実売数と在庫数のデータを確認しながら、書籍ごとに営業先である書店を定めてアプローチをかけるOne-to-oneでの営業スタイルへと切り替えていっています。

書籍別× 書店別の実売数と在庫数のデータ活用イメージ

商品軸のデータ分析で商品開発を見直す

以上は、実際に出版された書籍に対して、利益率・消化率の最大化を目指すための営業部分の改善のための商品データの分析になりますが、B社の課題として、そもそも「売れる書籍」をどう企画し、編集するのか、いわゆる商品開発も重要となってきます。

出版社に限らず、自社で商品開発している各種メーカー業にとっても、商品開発が重要となってくるでしょう。

あるアパレルメーカーでは、デザイナーごとに商品のヒット率を分析し、ヒット率はそこまで高くないが、当るとホームラン級の商品を企画するデザイナーと、ホームラン級の大ヒットは生み出せないが、手堅くヒットを量産するデザイナーとで毎シーズンの企画内容を振り分けていたりしています。

業態によって商品開発において分析するデータは異なってきますが、一例として、B社おける各編集担当者ごとに商品である各書籍のカテゴリの構成比を表したグラフをご紹介します。

B社においては、担当者A、担当者B、担当者F、担当者I、そして担当者Jが売れる商品を定期的に出せている状態でした。担当者Aと担当者Bはベテランでしたので、今までのノウハウや知識が商品にも活かせていることも想定できますが、担当者Iや担当者Jは新人です。

下の図を見ると、売れる書籍を定期的に出せている担当者はビジネス関連の書籍の構成比が高いことが分かります。

編集者別の書籍カテゴリ構成(担当書籍のタイトル数の構成)

実際にB社の各担当者にヒアリングすると、売れる書籍を定期的に出すことができている編集者は、自身の企画内容において、カテゴリを絞って得意な領域を見出していることが分かりました。

このように、商品とその開発担当者とのクロス分析をすることで、商品開発における改善施策の示唆出しも可能となります。

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