「売上を伸ばしたいけれど、何から手をつければいいのか分からない」「広告で集客はできても、リピートにつながらない」。ECサイトを運営する中で、こうした壁にぶつかっていないでしょうか。その突破口になるのが、顧客一人ひとりの行動を読み解く「顧客分析」です。
顧客分析と聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、代表的なフレームワークの特徴さえ押さえれば、自社に合った手法は見えてきます。逆に、手法の違いを知らないまま分析を始めると、手間をかけた割に成果につながりにくくなります。
この記事を読めば、以下が分かります。
- デシル・RFM・コホート・LTVという4つの分析手法の違い
- 自社の成長フェーズに合った手法の選び方
- 分析結果を売上につなげる実践ステップとツール
データを使ってリピーターを増やし、安定して売上を伸ばしたい方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
この記事を読んでいる方におすすめ

ECサなぜECサイトの売上アップに「顧客分析」が不可欠なのか?
顧客ニーズの多様化とOne to Oneマーケティングの重要性
国内のEC市場は拡大を続けており、経済産業省によると、2024年の物販系BtoC-EC市場規模は約15.2兆円に達しています。市場が伸びる一方で参入する事業者も増え、競争はますます激しくなっています。 出典:経済産業省
こうした環境では、すべての顧客に同じ訴求をする画一的なアプローチが通用しにくくなっています。求められているのは、顧客一人ひとりの好みや購買履歴に合わせて、最適な商品や情報を届ける「One to Oneマーケティング」です。そして、その土台となるのが顧客分析です。誰が、何を、どのように買っているのかを把握できて初めて、一人ひとりに響く施策を打てるようになります。
勘や経験からの脱却!データドリブンな意思決定のメリット
施策を「なんとなく」で決めてしまうと、効果が出たかどうかの判断もあいまいになりがちです。一方、データに基づいて意思決定を行えば、現状を正確に把握し、改善すべきボトルネックを客観的に特定できます。
たとえば、新規顧客の獲得コストが高止まりしているなら、既存顧客のリピートを促す施策に予算を振り分けた方が、効率よく利益を伸ばせる場合があります。こうした判断は、感覚ではなくデータがあるからこそ自信を持って下せます。データドリブンな意思決定は、広告費(CPA:顧客獲得単価)の最適化にもつながり、限られた予算を有効に使う助けになります。
ECの顧客分析で必須の4大フレームワークを徹底解説
ここからは、ECの顧客分析で代表的な4つのフレームワークを、それぞれの特徴とともに見ていきます。手法ごとに得意分野が異なるため、違いを押さえることが使い分けの第一歩になります。
RFM分析:短期的な優良顧客を発見し、即効性のあるアプローチを
RFM分析は、Recency(最終購入日)、Frequency(購入頻度)、Monetary(購入金額)という3つの軸で顧客を評価する手法です。最近購入し、頻繁に買い、たくさんお金を使ってくれる顧客ほど、優良顧客として高く評価されます。
3つの軸を組み合わせることで、「最近買ってくれた優良顧客」や「以前は買っていたのに離れてしまった休眠顧客」といったセグメントに分けられます。優良顧客には特別なオファーを、休眠顧客には掘り起こしの案内を、といった具合に、即効性のある施策を打ちやすいのが強みです。短期的な売上改善を狙いたいときに力を発揮します。EC事業でまず取り入れたい、基本となる手法です。

コホート分析:時間の経過とともに変化する顧客の定着率を可視化
コホート分析は、初回購入月や獲得したキャンペーンなど、共通の条件を持つ顧客をグループ(コホート)にまとめ、その後の行動を時系列で追う手法です。たとえば「1月に初めて購入した顧客が、その後どれくらい再購入しているか」を月ごとに追いかけます。
これにより、顧客の定着率(リテンション)がどう推移しているかを可視化できます。施策を打った前後でグループを比べれば、その施策が長期的に効いているのかどうかも判断できます。すぐに結果が出る手法ではありませんが、リピート構造の改善に取り組むうえで欠かせない視点を与えてくれます。

LTV(顧客生涯価値)分析:中長期的なロイヤルティと利益を最大化
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)分析は、1人の顧客が取引を続ける間にもたらす利益の総額を指標にする手法です。目先の1回の購入額ではなく、長い付き合いの中で生まれる価値に注目します。
LTVを把握すると、「新規顧客の獲得にいくらまでかけてよいか」という判断の基準ができます。獲得単価(CAC)がLTVを下回っていれば、その集客は採算が取れていると考えられます。優良顧客を育てる施策や、長く愛用してもらう仕組みづくりに投資する根拠としても役立ちます。中長期で安定した利益を目指すうえで、重要な指標です。
デシル分析:全体像を手早くつかみたいときの補助的な手法
デシル分析は、顧客を購入金額の高い順に並べ、10等分して分析する手法です。「デシル」はラテン語で「10等分」を意味します。上位グループが売上全体のどれくらいを占めているかが分かるため、売上構成のざっくりした全体像を素早くつかめます。
計算がシンプルで、表計算ソフトでもすぐ試せる手軽さが魅力です。一方で、購入金額だけで分けるため、その顧客がリピーターかどうかまでは区別できません。そのためEC事業では、これ単体で施策を組むというより、RFM分析などに入る前のウォーミングアップとして全体像を把握する、補助的な使い方が向いています。
【徹底比較】自社ECに最適なフレームワークはどれ?選び方と組み合わせ
4つのフレームワークの違いが一目でわかる比較表
ここまで紹介した4つの手法は、それぞれ目的も得意な時間軸も異なります。下の表で違いを整理しました。

短期で成果がほしいのか、中長期で土台を整えたいのか。この軸で見ると、自社が今どの手法から着手すべきかが見えてきます。なお、LTVは「1顧客が生涯にもたらす利益」と説明しましたが、データが揃わない段階では、初回購入後1年や半年間の購入額として簡易的に定義しなおしても問題ありません。
ECサイトの成長フェーズや目的に合わせた使い分けのコツ
どの手法が最適かは、ECサイトの成長フェーズによって変わります。立ち上げ期は、初回購入後の定着率を追うコホート分析で、リピートの土台を見極めるところから始めるのがおすすめです。
売上が伸びてきた成長期には、RFM分析で優良顧客や休眠顧客を見極め、リピーターを増やす施策に力を入れていきます。そして、事業が安定してきた成熟期には、LTV分析で顧客生涯価値を最大化し、長期的な利益につなげていきます。なお、最初にデシル分析で売上構成の全体像をつかんでおくと、各手法に入りやすくなります。一度にすべてを使いこなそうとせず、自社のフェーズに合った手法から取り入れることが、無理なく成果を出すコツです。

【応用編】他の分析手法(CPM分析・N1分析)との掛け合わせで精度UP
4つの基本フレームワークに別の手法を掛け合わせると、施策の解像度はさらに高まります。たとえばCPM分析は、購入回数やサイト利用期間、購入金額をもとに顧客を「初回客」「よちよち客」「優良客」などに分類し、リピーターへの育成に特化した手法です。中長期で顧客を育てる視点を補ってくれます。
実際に私たちが支援したインテリア雑貨企業の事例では、売上分析や商品分析に加えてCPM分析やバスケット分析を組み合わせ、会員別・商品別の購買データを細かく分析しました。その結果、課題に応じた施策を継続的に実施でき、新規顧客を増やしながら、リピート率を導入前より5.4%向上させています。 出典:インテリア雑貨企業の顧客分析事例(KUROCO)
また、数値に表れない顧客心理を深掘りしたいときは、特定の1人を徹底的に理解する「N1分析」も有効です。定量と定性の両面から顧客を捉えることで、より刺さる施策を設計できます。なお、CPM分析の詳しい手順は、別記事【CPM分析とは?RFM分析との違いややり方】で解説しています。
分析結果を売上(CV)に直結させる!実践の4ステップ
分析は、行うこと自体が目的ではありません。結果を施策に変えて、初めて売上につながります。ここでは、分析を成果に結びつける4つのステップを紹介します。

STEP1:分析の目的と解決すべき課題(KPI)を明確にする
最初にやるべきは、「何を解決したいのか」というゴールを定めることです。「カゴ落ち率を改善したい」「リピート率を上げたい」など、目的が具体的であるほど、追うべき指標も明確になります。
ここで、最終目標(KGI)とそこに至る中間指標(KPI)を切り分けて考えると、やるべきことが整理されます。目標設定の具体的な手順は、別記事【KPI設計:EC売上方程式に基づいた目標設定ガイド】で詳しく解説しています。課題と目標を言葉にすることが、分析全体の出発点です。
STEP2:データ収集前に必ず「仮説」を立てる
目的が定まったら、データを集める前に仮説を立てます。「初回客がリピートしないのは、購入後のフォローが足りないからではないか」といったように、考えられる原因を先に言葉にしておくのです。
仮説があると、検証に必要なデータと手法を効率よく絞り込めます。逆に、仮説を持たないままデータを眺めても、どこに注目すべきか分からず、時間だけが過ぎてしまいがちです。まず「あたり」をつけることが、分析を前に進める鍵になります。
STEP3:データ分析の実行と「比較(時系列・競合・セグメント)」
仮説を検証する段階では、「比較」を意識することが重要です。単体の数値だけを見ても、それが良いのか悪いのかは判断できません。過去の同じ期間との比較、ベンチマークとのギャップ、顧客セグメント間の比較など、複数の角度から見比べます。
たとえば、新規顧客と既存顧客で購入単価を比べたり、コホートごとに定着率を比べたりすることで、課題の正体がはっきりしてきます。比較を通して初めて、意味のあるインサイト(示唆)が得られます。
STEP4:改善施策の実行とPDCAサイクルによる効果検証
インサイトが得られたら、それをもとに具体的な施策を実行します。メルマガの内容改善や、サイトのUI変更などが考えられます。実行したら必ず効果を検証し、数値がどう変わったかを確認します。
このとき、一度に複数の施策を変えると、どれが効いたのか分からなくなります。一つずつ試して検証する。この「計画→実行→検証→改善」を繰り返すPDCAサイクルこそが、継続的な成長を生みます。分析して終わりにせず、改善を回し続けることが大切です。
ECサイトの顧客分析を効率化するおすすめツール
まずは基本!無料で使える「Google Analytics 4(GA4)」
顧客分析の土台となるのが、無料で使えるGoogle Analytics 4(GA4)です。サイトへのアクセス状況や、ユーザーがどのページでどう行動したか、どの流入チャネルが購入につながっているかを可視化できます。
GA4では、訪問者の関与度を示す「エンゲージメント率」など、購買行動を理解するための指標も確認できます。まずはGA4を正しく設定し、自社サイトのデータをきちんと取得することから始めましょう。無料で導入できるので、予算が限られていても今日から取り組めます。
顧客データを一元管理する「CRMツール」
RFM分析やLTV分析を本格的に行うには、購入履歴などの顧客データを一元管理できるCRMツールが役立ちます。CRMは、顧客一人ひとりの情報を蓄積し、分析やセグメント配信に活用するための仕組みです。
膨大なデータを手作業で集計するのは大変ですが、CRMを使えば、分析の多くを自動化・効率化できます。顧客とのやり取りを記録し、One to Oneの施策へつなげやすくなる点も魅力です。リピーター育成に本腰を入れる段階で、導入を検討したいツールです。
ユーザーの行動・心理を可視化する「ヒートマップツール」
数値データだけでは見えてこないのが、ユーザーの「実際の動き」です。それを補ってくれるのがヒートマップツールです。ページのどこがよく見られ、どこで離脱しているのかを、色の濃淡で視覚的に把握できます。
たとえば、重要な情報が読まれずにスクロールで飛ばされている、といった気づきが得られます。定量データで「どこで」を、ヒートマップで「なぜ」を捉える。両方を組み合わせることで、顧客理解はより立体的になります。無料で使えるツールもあるため、手軽に始められます。
まとめ:顧客分析でECサイトの継続的な成長を実現しよう
データ分析は手段であり、ゴールは「顧客体験の向上」と「収益最大化」
顧客分析は、ECサイトの売上を伸ばすうえで欠かせない取り組みです。ただし、分析そのものが目的になってしまっては本末転倒です。大切なのは、分析を通じて顧客を理解し、その価値提供につなげていくことです。
【この記事のポイント】
- RFMは短期の優良顧客発見、デシルは全体把握の補助に向く
- コホートとLTVは、中長期の定着と利益最大化に効く
- 自社の成長フェーズに合わせて手法を選び、組み合わせる
- 「目的設定→仮説→比較→PDCA」で分析を施策に変える
- GA4・CRM・ヒートマップを目的に応じて使い分ける
顧客の求める価値を理解し、提供し続けること。それが結果として、LTVの向上とECサイトの継続的な成長につながっていきます。まずは取り組みやすい手法から、一歩を踏み出してみましょう。
自社の顧客分析、何から始めるべきか整理しませんか?
顧客分析は、自社のデータを正しく読み解くことから始まります。とはいえ、「どの手法を、どう使えばいいのか分からない」と感じる方も少なくないはずです。
KUROCOのセミナーアーカイブでは、データ分析を活用して売上を伸ばす具体的な手法を公開しています。導入1年で売上1.7倍、改善率135%といった実績の裏側にある考え方も知ることができます。
手法の選び方が分かれば、改善の一歩を自信を持って踏み出せるようになります。

慶応義塾大学理工学部卒業後、株式会社船井総合研究所に入社。主に中堅規模(数百億)以上の企業をメインクライアントとしたプロジェクトに従事。化粧品メーカや卸・リテール業界など、幅広い業種において、中期経営計画策定やマーケティング戦略の構築、M&Aにおけるビジネスデューデリジェンス等の実績を有する。独立後も製造業や小売業、サービス業に至るまで大小様々な企業の課題発見に従事、成果を上げる。特にデータ分析においては、複数のコンサルファームにもアサインされる実力を有する。コンサルティングに加え、ヘアサロン2店舗と、まつげ・眉毛専門のアイサロン1店舗の運営、ならびに伝統工芸品の販売事業にも携わり、現場視点での売上づくりにも取り組んでいる。その他、AI関連スタートアップや教育関連企業からもデータ分析支援の依頼を数多く受けている。2013年9月にクロスメディア・パブリッシングより「問題解決のためのデータ分析」を出版(2019年2月に新装版を出版)。教育プラットフォームUdemyで展開しているオンライン講座(「ビジネスの現場で使えるデータ分析」、他)の受講者数は4万人(2024年2月現在)を超える。2020年10月KUROCO株式会社を設立、現在に至る。
東亜大学芸術学部トータルビューティ学科非常勤講師。
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