【飲食店のデータ分析事例】さらなる売上拡大のための施策を立案
この記事では、弊社が実際にコンサルティングした事例をもとに、ビジネスにおけるデータ分析のやり方や考え方を解説します。
目次
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売上を増加させる方法を導き出す
今回は「居酒屋C店」の事例をもとに、売上を増加させる方法を導き出す売上が下がっている原因を洗い出すデータ分析を解説します。
Case Study
東京から埼玉に延びる東武東上線沿線に展開する居酒屋で、板橋区内にある「C店」では、クーポン券や曜日ごとのサービスなどの施策を行っており、お客様のリピート率も高く、前年の売上もクリアしていました。しかし、前年からの売上の伸びがあまりなく、悩んでいる状況でした。そこで、より収益性を高めていくための新しい施策を展開していきたいと考えていました。
データ分析は、下記の手順に沿って行います。
- 目的の明確化
- 仮説の絞り込み
- 分析方法の定義
- 情報(データ)の収集
- 分析
手順の詳細は「正しいデータ分析の手順とは?成果につながる5つのステップ」で解説しています。
1.目的の明確化
今回の目的は「さらなる売上増加に向けた打ち手を構築する」ことです。
2.仮説の洗い出しと絞り込み
実施すべき施策は十分に行い、競合店舗の出店もない状態で売上が頭打ちになっている現状から、ロジックツリーを使って客数と客単価に分けて考えていきました〈図表1〉。 (ロジックツリーや、課題と仮説を洗い出すための考え方は「問題解決に欠かせないロジカルシンキングのやり方」で詳しく解説しています。)
図表1 このケースにおける仮説
今回のケースでは、現状でさまざまな施策を打ち、リピート率も高いということもあり、新規客が増えないこと、とりわけ市場自体が飽和しているという仮説が有力と判断されました。
3.分析方法の定義
以下の視点で分析を行います。
市場環境を含めた売上増加の可能性分析
→ 現状の売上状況について、市場環境を含めて今後の売上増加の可能性を分析する
4.情報(データ)の収集
「市場環境を含めた売上増加の可能性分析」のため、以下のデータを収集します。
- 自店舗の売上推移(客数・客単価)
- 展開エリアの市場規模
5.分析 / 市場環境から売上が伸び悩んでる原因を調べる
ここからは、実際にデータを整理し分析していきます。
リピート率が高く、かつ店舗内でさまざまな施策を実施しても売上が伸び悩んでいる場合、そもそも市場環境が悪くなっている可能性があります。
C店のあるエリアは住宅地であり、駅前には昔ながらの商店街があります。その商店街の中に、C店はあります。競合店は近年は増えていません。以前からある競合店舗が苦戦している中、C店だけは売上を上げています。したがって、「競合店舗にお客様を取られている」という可能性は低そうです。
それでは、エリア内におけるそもそもの居酒屋の市場規模はどうでしょうか。図表2はA店のあるエリアの市場規模と売上推移です。
図表2 C店のあるエリアの市場規模と売上推移
「エリア内人口」とは、このA店に来店可能性のあるエリアの人口になります。エリア内の人口は年々増加しているものの、居酒屋市場全体が減少傾向にあるため、エリア内における居酒屋市場も減少傾向にあります。
一方、A店においては、直近4年の中では2014年をピークに売上高が減少していますが、2017年には増加に転じています。
また、エリア内におけるA店のシェアはおおよそ30%を超えています。シェアは年により多少の変動はありますが、「競合店舗に大きくお客様が流れている」ということはないことがわかります。30%というシェアは、ランチェスターのシェア理論における「寡占シェア」と呼ばれる割合で、その地域では競合する店舗がないレベルでシェアを取っていることがわかります。
したがって、このA店は、同エリア内においては十分に売上を上げている店舗といえます。
打ち手の検討 / 市場を拡げて新しいターゲットを獲得する
さて、このような現状を踏まえると、これ以上売上を伸ばすのは難しいように感じます。
しかし、十分なシェアが取れている中で、さらなる売上拡大を目指す場合には、「戦う市場」自体を追加し、今まで獲得できていなかったターゲットを獲得することで売上を伸ばすことができます。
例えばスターバックスやドトールなど、今では当たり前のカフェ業態ですが、以前は「コーヒーを飲む場所」といえば、飲食店としての喫茶店だけでした。飲食店の場合、席数が決まっているため、物理的に一度に対応できる客数は決まってしまいます。一方、カフェ業態が一気に喫茶店からシェアを奪っていった何よりも重要なポイントとなったのが「テイクアウト」です。テイクアウトを設けることで、席数の制約なしに売上を獲得しつつ、店内でお客様がコーヒー1杯でゆっくりできるのです。
そこで、A店でも「テイクアウト」を店頭で実施することにしました。結果としては、なんと1カ月で40万円ほどを売り上げました。これは従来の月の売上高の10%程度に達するような金額だったのです。
また、購入されたお客様は、一人で商店街を歩いている男性や主婦であり、今後の来店が期待できそうです(なんとその後も施策を継続し、1年後には月商100万円近くとなる、A店にとってなくてはならない事業にまで成長しています)。
その他にも、さまざまな成果がありました。
- 意外と客単価が高い(平均1,000円前後)
- 土日は16時~17時、平日は17時~19時に需要がある
→ 店内の客数が少ない時間での販売のため、追加の人件費がかからない - 店頭から店内への誘導(後日)をしやすい
- 店前の16時からの人の動きが見やすい
今回のケースのように十分なシェアを取っている場合、既存の事業だけでは売上増加が困難な場合があります。その場合、新たなターゲットを獲得する新事業展開も視野に入れることが必要になるのです。
新規事業の展開が必要なのかどうか、自社(自店舗)は十分なシェアを取っているかを知るためにも、データ分析は効果的な手段です。
今回は飲食店を例にデータ分析事例をご紹介しましたが、他にも物販・小売業界における事例を知りたい方はこちら
⇒ DL資料『業界別分析・可視化事例~物販・小売業界編~』
【出典】齋藤健太.問題解決のためのデータ分析
※この事例では、商品名などは伏せているほか、実態から大きく外れない範囲で数値データを加工していますが、実際に近いケースを扱うことで、この記事をお読みのみなさんが現実感を持ちやすく、現場のニーズを当てはめやすいものとなるよう構成しています。
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